物件の名付けルール

法律

建物を新築した際には、各自治体の住居表示例などに基づき、自治体に建物名を届け出ることになっています。また、登記については、区分建物であれば登記情報の一棟の建物の表示の部分に「建物の名称」が記録されます。一部制限があるものとしては、建物の名称に「事務所」や「工場」という一般的な名前を付けることはできません。これから説明する不動産の表示に関する公正競争規約の第19条と商標権の第36類に登録されている名前以外なら原則として建物の名付けに制限はありません。

物件に地名を組み込む場合は注意が必要です。不動産の表示に関する公正競争規約の第19条に物件の名称の使用基準が示されています。

・物件の所在地の地名や歴史上の地名を組み込むことができる(例:〇〇札幌)

・物件の最寄り駅や停留所の名称を組み込むことができる(例: 〇〇南郷7丁目)

・物件が公園や庭園などの施設から直線距離で300m以内の場合に組み込むことができる(例: 〇〇中島公園)

・物件の面する街道や坂、道路から直線距離で50m以内の場合に名称を組み込める(例: 〇〇環状通)

これらの制限が設定された理由は実際の物件所在地とは全く異なる場所に物件があるにもかかわらず、物件名にブランド力のある地名をつけ物件を探す人たちを誤認させる事由があったからです。なお別荘地やリゾートマンションの場合は上記の距離制限よりも少し離れていても組み込むことができます。

物件の名前が入居申込に影響する?

所在地や駅名などと全く違う名前を付けることは問題ですが、物件の名前によっては入居、退去に影響する可能性があります。直近で話題になったのが愛知県蟹江町学戸にある「La・Maison・Gackt(ラ・メゾン・ガクト)」という名のアパートです。物件名のGacktの綴りが歌手のGacktと同じ綴りということで、歌手のGacktさんが不快感を示したことが発端となりました。地名の「学戸」と歌手の「Gackt」にちなんで名付けたのではないかと推測されていました。

法的な観点からこの件は違法だったのでしょうか?結論から言うと何も問題は無かったようです。焦点となった物件の名前ですが、商標登録されているかどうかが鍵となります。商標とは特許庁に事業者が会社独自のマークと名前を登録することで他者にその登録されたマークと名前の使用を禁ずることができます。そして商標の登録は第1類から第45類までの使用範囲を指定しなくてはいけません。例えば、ソーセージの「シャウエッセン」は加工食品という使用範囲の第29類で登録されており、不動産名表示に関する第36類には「シャウエッセン」は登録されていません。つまり物件名に「シャウエッセン」と入れても問題ないということになります。不動産に関係する36類の法区分の名前の例の例を挙げると株式会社大京の「ライオンズマンション」、株式会社大和地所の「ダイアパレス」などが該当します。つまり上記の第36類の区分に登録された名前を物件名として登録すると商標権の侵害となります。

歌手のGacktが商標登録していた「Gackt」は小売、卸売等の商品販売に関する第35類と娯楽、スポーツ及び文化活動の第41類の2つの範囲であり、不動産に関係する36類の範囲には登録されていませんでした。つまり物件に「Gackt」と名付けても何ら問題は無いということになります。しかし、現地の管理会社がすぐに物件名を変更したため騒動が拗れる前に収束することになりました。

愛知県学戸の「La・Maison・Gackt」のように必要に迫られて物件名変更をすることは珍しいと思いますが、物件名変更は空室対策にもなるようです。子供の名前にも流行があるように、物件の名前も流行があります。物件名の流行の変遷を辿ると「〇〇荘」「〇〇アパート」から始まり「〇〇ハイツ」「コーポ〇〇」へと変わり、現在ではフランス語やイタリア語、ドイツ語などを使った「メゾン〇〇」「レジデンス〇〇」といった名前が流行のようです。実際に似た物件でも名前が「札幌アパート」か「TheResidence札幌」では後者の名前のほうが反響があるようです。下記の表によく使われる名前を載せています。

まとめ

新しく所有する物件の名前を変えたい時は不動産の表示に関する公正競争規約に引っかからないかを確認しましょう。そして、特許庁の商標確認のウェブサイトでつけようとしている名前が物件の名称として登録されていないかどうかを事前に調べてみるといいでしょう。最後に物件名を変更する場合、入居者様に身分証明書などの変更を強いる場合がありますので、配慮が必要です。