政府は東京・大阪・福岡・北海道の4地域を「金融・資産運用特区」に指定すると発表しました。
「金融・資産運用特区」は国内外から投資資金を呼び込むため国が新たに創設した制度です。政府の狙いは個人の預貯金を投資や消費につなげ、社会全体の資金の流れを好循環させることにあり、海外からの資金・人材流入を促すため4つの指定地域での規制緩和や環境整備が行われます。ニューヨークやロンドンといった金融街の優位性を測る国際金融センターランキングでは東京は現在20位という立場です。ここから今回の4都市の特区指定で国際的なマーケットの中で投資家たちからの関心を呼び込みたいという思惑が見てとれます。
4都市の特区の特徴を説明していきます。
- 東京都
イギリスのロンドン市と連携し、持続可能な社会を目指す。
- 大阪府
「2025大阪・関西万博」の開催を一過性のものとすることなく、金融機能の強化を目指す。
- 福岡県
福岡の特性と親和性が高い分野の企業への投資を目指す。
- 北海道
日本の再生可能エネルギーの供給基地を目指す。
政策の中心はGX社会への移行
今回の特区指定はGX(グリーントランスフォーメーション:脱炭素社会を目指し、自然の力で環境に負担がかからないエネルギー社会に移行する動き)に注力しており、北海道・札幌エリアが特に注目が集められています。従来の経済論では、環境と経済は反比例する関係です。例えば、経済が発展するほど都市化が進み自然環境は荒廃し、逆に自然環境を優先すると経済成長が弱くなってしまうこととなります。今回の構想ではその相反する環境と経済どちらも両立しながら日本を成長させようという狙いが北海道・札幌に定められています。日本のエネルギー輸入にかかる費用は16兆~18兆円程で、GXの効果により自国でのエネルギー拠出とエネルギー輸入の支出金額が日本に還元されるという期待があります。
GXに関わる取り組みは洋上風力発電と水素社会構築の2つになります。
- 北海道の洋上風力発電による発電目標量は15GW(ギガワット)で約1000基分の風車発電量に匹敵します。洋上風力発電の制作・設置に約10年を費やす予定で、その間に部品製作や製作工程から地元経済への波及効果が見込まれます。また設置完了後はおよそ20年の稼働期間を見込んでいます。しかし洋上風力発電の建設に必要な専用船が日本では不足しているため、緩和措置の1つとして外国船籍の日本への寄港を許可することが打ち出されました。これにより海外からの専用船が寄りやすくなり建設を加速させることが期待できます。発電量試算では北海道の年間電力需要の約1.5倍の電力供給が見込まれます。
- 上記で発電した電力を利用して水素を作りだすことも枠組みに含まれています。道内各地で作り出した水素を札幌から苫小牧までの都市部に集約し自給する狙いがあります。札幌市では今年度から水素サプライチェーンの試作段階から始め、2030年度以降には本格的な普及を目指しています。今回の緩和措置の1つとして、施設に貯蔵できる水素上限の緩和、水素を輸送するための保安検査の簡略化などが盛り込まれています。水素で作られた電力は次世代半導体を創る千歳市のラピダスや苫小牧市のソフトバンクデータセンターなどに使用される予定です。

出典:北海道・札幌「GX金融・資産運用特区」の概要 |
人口減に苦しむ北海道の助け舟となるか
上の図のように水素社会が普及するようになると北海道全土での水素生産・運搬が開始されるため、各地での雇用創出、人口増加への一因になる可能性があります。GX事業に参画する企業は札幌市や北海道からGX事業認証を受けることにより、補助金交付を受けることや投資家からの資金援助を受けやすくなるというメリットがあります。これにより地元の企業が参画しやすくなり地域活性化に繋がるものと思われます。しかし、脱炭素社会へ向けて具体的な計画が組み込まれることは日本では初の試みとなるため、これからどのような結果になるのか注視していくことが重要となりそうです。