問題入居者は、不動産大家にとって避けては通れない問題の1つと言えます。例えば、深夜に連れてきた友人と大騒ぎ等で騒音問題を起こしたり、他の入居者に対して粗暴な言動をとったりしているケースがあります。当事者間だけでのトラブルならまだしも、他の入居者がそのトラブルが原因で次々に退去してしまう事態になってしまうと、不動産大家にとって大きな損失に繋がってしまいます。
また宅建業法の35条・47条では重要な事項について入居前の入居者に対して虚偽又は故意に告げないことを禁じられており、そういった問題入居者の存在を隠してはいけないと決められています。ですが「重要な事項」の線引きが厳格に決められているわけではないので告げないからといって必ずしも告知義務違反に直結するということではありません。
問題が発覚したとしてもすぐに退去させることができないのが現状です。その理由の1つは迷惑行為の立証の難しさです。騒音であれば、音量、騒音の継続時間、騒音の特性などを録音しなければなりません。他にも、ある入居者が他の入居者の住戸の鍵穴をボンドで埋めるなどといった行為も、現場を押さえない限り立証が難しいです。
もう1つの理由は、借地借家法により迷惑行為が大家と入居者の信頼関係を破壊するほどでなければ退去をさせるのが難しいためです。
信頼関係が破壊されたと認められて契約解除が可能となった事例及び、認められなかった事例は以下の通りです。
解除が認められた事例 | 解除が認められなかった事例 |
・賃借人の子が、友人らと毎夜のごとく賃貸物件に寝泊まりし、所かまわず放尿する、器物の損壊、駐車場での二輪車の騒音走行などを行った事例(大阪地判昭和58.1.20)。 | ・賃借人の子が他の住居のドアにマニキュアを塗ったり、通路で大便をし、また納豆ご飯等を他の住居の玄関前に放置するなどの行為を繰り返した(東京地判平成27.2.24)。 |
・隣室の入居者に対して理由なく苦情を述べるだけでなく、ドアを蹴って穴を開けるなどした事例。(東京地判平成17.9.26) | ・シェアハウスの賃借人が、共用部のリビングを占拠して、他の入居者に対して高圧的な態度を示したり、深夜に大声や奇声を発した事例(東京地判平成27.11.10)。 |
・再三の注意にもかかわらず2年以上にわたり居室内にゴミを相当な高さまで積み上げ、社会常識を超える不衛生な状態を継続させた事例(東京地判平成10.6.26)。 | ・深夜に同居人と頻繁に大声で口論等をして、近隣住人の受忍限度を超える騒音を発生させた(東京地判平成22.8.6)。 |
上記のように同じような事案に見えても、解除が認められたものと認められなかったものがあります。解除が認められる傾向としては、大家や管理会社側から問題行動の改善の勧告を複数回行ったが改善の兆しが見られなかったことが挙げられます。
退去までにかかる時間と費用
問題行動改善の勧告を行っても改善されない場合は、最終的に退去を求めることになります。問題を起こしている本人、または緊急連絡先の親族などに退去に応じるよう説得します。
しかし、それでも応じない場合は最後の手段として訴訟提起になります。なお、訴訟を提起してから裁判が始まるまでに1ヶ月以上、裁判が終結するまでにはさらに3ヶ月程かかるため、早めの訴訟を提起しつつ裁判と並行して任意の退去交渉をするのが一般的となっています。
問題入居者の退去交渉を弁護士に依頼する場合、着手金と報酬金が発生します。ただし、賃料未払いの場合と比較すると、入居者の抵抗や立証の困難も予想されるため、高額となることが予想されます。
事案の難しさにもよりますが、目安として着手金30万~50万円程度、さらに報酬金30万~50万程度が相場となっています。また他にも任意交渉の段階であれば1万~2万円程度ですが、訴訟を提起するとなれば印紙代、郵券代でさらに2~3万円程度かかることになります。
また、強制執行にまでもつれた場合は個別の案件ごとに異なりますが、執行費用で1ルームでも20万円程度、戸建てとなると100万円程の費用がかかります。民事執行法42条によると執行費用はその入居者から回収が可能とされていますが、実際は入居者にその費用を賄えるほどの財産がないケースが多いようです。
入居者層も年々変わってきているのに伴い、入居者問題も複雑化してきているのが現状です。先に述べたような問題以外にも、外国人入居者が料理に使うスパイスによる臭いの問題や勝手に同居人を増やす、ペットの無断飼育、部屋の無断改造、無許可での部屋の又貸しなど、問題も多様化しています。
問題が発生してしまった場合は被害が拡大する前に弁護士に相談するのが早期解決に繋がると思われます。