人手不足が顕在化
2023年7月に狸小路にモユクサッポロ、2023年11月にすすきの駅にココノススキノが開店して札幌中心街に新しい風が吹き始めました。
話題性が強く、明るいニュースですがこの2つから読み取れる現在の札幌の不動産、建設状況がありますので取り上げてみます。
ココノススキノは東急不動産が旧商業施設「ススキノフィラ」の跡地に地上18階、地下2階の複合商業ビルとして開発しました。満を持してオープンしたココノススキノですが、3階のみシャッターが降りており、フード&アミューズメントをテーマに出店する店舗も決まっていますが、3階だけ2024年1月31日オープンとなっています。
報道によるとオープンが遅れる理由は、建設要員の不足が大きいそうです。2023年10月のかわら版で特集したラピダスの千歳新工場建設に多くの人員が割かれている影響がこういった所にも及んでいると推察されます。
「人材確保のために賃金を上げれば、人員確保はできるのではないか」は、過去の話で現在では通用しなくなっているようです。残業規制による就業時間の短縮化、北海道というエリアが他の都道府県間から人員(建築職人)を呼びにくいということもあり、単純にはいかないようです。
どの程度、建築業界に人が足りないのかを調べるため、有効求人倍率を調べると2023年10月の北海道の全業種の有効求人倍率は1.02倍となっています。

有効求人倍率が1倍を切ると募集に対して求職者のほうが多く、逆に1倍を超えると求職者より募集のほうが多いということになります。
つまり今現在求職者1人に対し、ほぼ1つの求人がある状態です。
今回テーマにしている建設業界の有効求人倍率は、4.51倍になります。つまり建設関連企業4社、5社が求人を出してそれに応募する求職者が1人という倍率です。左記のグラフの通り他業種よりも有効求人倍率が高いので人気が低いといえます。
場所は変わりますが、2025年4月開催予定の大阪万博も大きな遅れが出ていると報道されているのは皆様もご存じかと思います。大阪の2023年10月の建設業界の有効求人倍率は8倍です。建設規模も北海道とは比較できない程の大きさでありながら、北海道より建設業界への応募が少ないとなると一連の報道の通り、開催まで間に合わないという事も現実味を帯びてきました。
また、東京などの都心部についても8倍程度の水準となっています。そうみると、北海道の建築業界はまだ良いほうなのかもしれません。
新しいビルはテナント賃料が高い
モユクサッポロ、ココノススキノ共通で上がる話題はとにかく強気な賃料設定です。例えばモユクサッポロの路面店の賃料は月390万円を超えており、坪単価は7万円となっています。

この坪単価は東京の渋谷や池袋などの一等地の相場よりも高く、最も価格が高い銀座に匹敵する価格となっています。とはいえ、周辺エリアを平均した価格では、関東圏と比べるとテナント賃料は最も低い傾向にあります。こうした強気設定では道内企業の出店よりも、全国企業が参入するようです。ココノススキノに出店したTOHOシネマズのように資金があり全国展開に意欲的な企業がこぞって出店しています。
札幌市は大規模修繕や建て替えの周期にさしかかっており2020年から2030年にかけて再開発が目白押しになっています。モユクサッポロ、ココノススキノの前例に牽引されて札幌市中心繁華街のテナント家賃相場が上昇すると予想されています。
札幌駅南口にあった札幌エスタも8月に閉店し再開発が始まりました。また、ヨドバシホールディングスによる北4西3地区の開発、そして平和不動産による大通り西4南地区の再開発等が進んでおり、札幌駅周辺もどんどん様変わりしていきます。
不動産の鑑定強化などを行う、一般財団法人日本不動産研究所の札幌エリアの今後の見通しにとして、コロナ禍によるススキノを中心とした飲食店の空きが顕著だったが、人の流れが回復してそうした空き店舗も埋まってきていく。しかし、食材価格の高騰が止まる兆しがみえないこと、働き手不足などの懸念材料は依然として存在していると分析しています。
慢性的な人手不足が課題
ラピダス千歳工場、札幌中心街の再開発と表面上は北海道の盛り上げを演出していますが、建築作業員の人員不足という影響が響いてくるのはこれからです。
今後は、内装・外装・設備など発注に対し受注側の人員の確保ができず工期に時間がかかる状況が慢性化する可能性があります。また、人員確保が出来ないので工事を請け負えないという事もあり得ます。そういった面でも、一昔と状況が大きく変わってきていますので、予定している大規模改修などは余裕をもって計画する事をお勧めします。