経済産業省はLPガスの商慣行是正に向け、法律を一部改正することを発表しました。
LPガス商慣行とは
従来よりガス給湯器や暖房などの機器の費用を、入居者が支払うガス料金に断りなく上乗せする行為が行われ、高額となっているケースが問題視されていました。
さらに、エアコン、インターフォン、WI-FI機器、防犯カメラといった、ガス機器と関係がない製品もLPガス事業者が費用負担をし、LPガス料金にそれらの費用を料金に上乗せして入居者から回収するという行為が横行。また近年はオーナーや建設業者から無償貸与の要求を断るとLPガス供給を受注できなくなる事例などが発生し、下請けいじめともとれることが常態化し、社会問題となりました。
この流れは数十年前より始まり、LPガス事業者が賃貸集合住宅へのガス供給契約獲得のために、オーナーに対してガス給湯器やガスコンロを無償提供したことが始まりといわれていて、近年はこれが過度になりすぎていました。
これらの無償貸与の費用負担を実質的に担っているのは入居者であること、さらに賃貸集合住宅の入居者は事前にLPガスの料金を知ることが出来ず、入居してから知ることになるため、料金に不満があっても受け入れざるを得ない状況になることが問題点となっています。
他にもオーナーのLPガス事業者の選択基準が、ガス料金ではなくいかに設備を設置できるのかになっており、入居者目線ではなくオーナー目線のみで選ばれていることも問題となっています。過剰な設備貸与のサービスの料金を入居者が支払い、オーナーが得をするという構図に対して消費者保護団体から上乗せ禁止を求める声が上がっていました。
法改正の具体的内容について
そこで2024年4月に経済産業省により「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令」が公布され、下記の3点が施行されることとなりました。違反した場合はガス事業者に対し罰金徴収、立入検査、勧告、さらに勧告に従わない場合は公表、登録の取消が適用されます。
- 過大な営業行為の制限(2024年7月2日施行)
LPガス事業者が行う無償貸与や無償での配管工事の請負、紹介料の支払い等の利益供与をはじめとする過大な営業行為が禁止されます。またそうした営業行為を通報できるように資源エネルギー庁が「LPガス商慣行通報フォーム」を設置しています。
- 三部料金制の徹底(2025年4月2日施行)
「基本料金」、「従量料金」、「設備料金」の3つからなる三部料金制を入居者に対して明らかにし、LPガス消費と関係のない設備費用はこの3つには含めることが出来ません。賃貸住宅向けのLPガス料金については、エアコン、Wi-Fi設備、さらにガス器具などの消費設備に関する費用も計上することが禁止されます。
- LPガス料金等の情報提供(2024年7月2日施行)
入居者が賃貸借契約を締結する前にLPガス料金の詳細を事前にあらかじめ提供されていることが前提の上で、LPガス料金表等を適切に提供することが義務付けられます。なお、LPガス料金表等が予めLPガス事業者から提供されていない場合は、賃貸借契約を締結する際にLPガス事業者に対し、オーナー、不動産管理会社、仲介業社を通して、または入居自身で直接請求できるということを入居者に伝えることが望ましいとされています。
経済産業省によると、施行されるまでのLPガス事業者等の駆け込み営業対策として設置した通報フォームには、2024年5月10日時点で約670件の情報提供があるようです。LPガス事業者、不動産関係者、仲介業者による行為についての情報であり、そのうちの約8割をLPガス事業者による行為が占めています。事例としては、LPガス事業者が管理会社に対してボンベ設置場所の土地代、LPガス料金からのキックバックなどに形を変えて、従来通りに紹介料相当の金額を支払うという営業を行っていることが挙げられます。
オーナー側の対応
今まで入居者が支払っていた設備費をオーナーが払う事になるため対応が迫られます。
例としては家賃改訂の検討です。これまでは無償貸与により設備費用の負担がなかったのが今後オーナー負担となるため、その分を家賃や駐車場代の値上げによって上乗せ代を賄うことを余儀なくする可能性が出てきます。
今回の規制は施行後の新規賃貸借契約が対象となるため、オーナーは家賃をあらかじめ値上げした状態で募集を出さなければならない可能性もあります。お部屋を探している方にとって家賃は最も重要な決め手の1つであるため入居率が悪化してしまう可能性も考えられます。既に契約している場合もLPガス料金の明細を渡すことになるため不満に思う入居者からの問合せや苦情が来ることも考えられます。
今後の動きについて
ガス料金上乗せは確実に減っていくと思われます。LPガス事業者、不動産管理会社、仲介会社、オーナー等、今回の商慣行に関わっている全ての関係者に対し、経済産業省、国土交通省が連携して徹底した通知を行っています。さらに公布に伴い、施行されるまでの間に行われる駆け込みでの無償貸与を見越し匿名で告発できる通報フォームが設置され、今回の商慣行撲滅への包囲網が狭まっています。しかし国、自治体の監視・執行体制がまだ不完全であり、違反の発見、告発に対しての是正が追い付いていない状況のようです。今後はLPガス業者による「貸付配管」のスキームも規制する議論があるため、ガス業界の商慣行のテコ入れが今回の件を皮切りに進んでいくかもしれません。