千歳のラピダス新工場がもたらすもの

地域

北海道で最先端技術が誕生する?

Rapidus株式会社の千歳への新工場建設が北海道のみならず、日本中の注目を集めています。千歳の新工場設立までの経緯、その工場での目標とそれに伴う現在と将来予想される影響について今回は掘り下げていこうと思います。

ラピダスの目指すゴール

9月1日に千歳で着工式を迎えた「IIM-1(イームワン)」ですが、そもそもラピダスとは何を行っている会社なのかを説明します。ラピダスの主な業務内容は電子機器の頭脳とも呼ばれる半導体、集積回路等の電子部品の開発、製造、販売です。

千歳での目標として国内初の2nm(ナノメートル)以下の半導体をアメリカの大手IT企業であるIBMやベルギーのIMECと技術開発を提携し次世代半導体の開発を目指します。2nmは髪の毛の太さの10万分の1と言われるほどの極めて小さいものであり、半導体分野の中では世界最高水準の技術となります。かつて半導体生産で世界を席巻していた日本を2nmの半導体技術で再び取り戻そうという狙いがあるのが千歳市に建設される「IIM-1」です。

千歳市が選ばれた理由として、豊富な水資源、再生可能エネルギー、新千歳空港や苫小牧港などの充実した交通インフラ、人材確保の優位性、土地の広大さ等、そして国から現時点で3300億円の支援が挙げられます。先行している事例として熊本県菊陽町のTSMCがあります。TSMCは台湾の世界でも名を知られている半導体メーカーであり、リスク分散として日本の熊本県に子会社、工場を建設しています。こちらも千歳市と選定理由が似ており周辺地域への経済効果が大きく注目されています。

さらにラピダスの小池社長は千歳のみで完結させずに、苫小牧から札幌を経て石狩に至る南北線を軸に先端産業を集積させる「北海道バレー構想」を2030年までを目処に掲げています。千歳のラピダス新工場進出を足掛かりにして北海道では発展途上である製造業などを含む第2次産業を強化していくという中長期の目標を掲げています

ラピダスがもたらす効果

建設工事自体は始まったばかりですが、既に近隣地域では経済効果が起きています。

  • 人口の流入による周辺地域の発展

工場建設を請け負った鹿島建設の試算では、最大で約4000人の関係者が従事する見込みを発表しています。これにより千歳市の悲願であった人口10万人を超える見通しもあります。従事者の宿泊関係で近隣、特に駅周辺の物件、ホテルは満室になっているようです。さらに工事完了後も人材確保のための学校設立や従業員の移住に伴う新千歳空港の新滑走路増設案など人口が増加するかもしれない要素が目白押しです。

  • 建設人材、重機の不足

札幌市中央区の再開発ラッシュの時期と重なっており、さらに千歳の工場稼働開始予定日まで2年を切っていることが建設人材と重機の不足に拍車をかけています。建設機械レンタル会社もこれ以上の不足が見込まれる場合、顧客ごとに優先順位をつける可能性があると言及しています。こうした事情は不動産経営にとっても厳しい状況となるため、従来通りの価格、工期での工事の発注の方法では仕事を受注してもらえないかもしれないという心構えをする必要があるでしょう。

  • 地価の値上がり

不動産投資家にとって最も注目すべき点は地価の上昇だと思われます。右図の示す通りに北海道バレー構想の対象となっている地域は軒並み地価が上昇しています。一方で北海道バレー周辺の地域は恩恵を受けていないように見えます。工事を開始した現時点でこれほどの影響を及ぼしています。

工事完成後も第二の工場や北海道バレー構想の件が浮上しているので土地価格の上昇は続くと思われます。同様に熊本県でTSMCが建設されている菊陽町でも最大20%の地価上昇が記録されています。しかし、地価が上昇しているからといって手放しに喜べる事ばかりではありません。既に土地を所有している方にとっては固定資産税や相続税の負担が増えます。

スタートを切ったばかり

ここまでラピダスが千歳に新工場を建てることを決めた経緯とそれによる周辺地域への現時点と将来的な影響を説明してきました。本文には書かれていない地元住民の建設反対、2nm半導体の作成が可能なのかどうか、工場建設の工期が目標までに完成するかどうか等千歳の「IIM-1」に対する懐疑的な意見も数多くあります。ただし、停滞した北海道の経済に一石を投じるのは確実であり、千歳に留まらず北海道全体に波及すると思われます。

千歳のラピダス新工場のみならず、熊本TSMCの件も含めて今後の動向に投資家の注目が集まっています。